巡回セールスマン問題の基礎:概念と解決方法

巡回セールスマン問題(TSP)は、組合せ最適化問題の一種であり、与えられた複数の都市とそれらをつなぐ距離のデータをもとに、全ての都市をちょうど1度ずつ訪問し、最短の距離を旅する経路を求める問題です。TSPは、最適な解を求めることがNP困難であるため、実用的な問題においては、大規模な都市の組み合わせの場合には、近似解法が一般的に使用されます。以下では、TSPの基本的な概念といくつかの解決方法について説明します。

NP困難とは、計算量理論において、NP完全問題と同じ程度に難しいと考えられている問題のことです。NP完全問題とは、非決定性チューリングマシン多項式時間で解ける問題のうち、どのNP問題でも多項式時間で帰着可能な問題のことを指します。

つまり、NP困難問題は、多項式時間で解くことができるかどうかは不明ですが、NP完全問題と同じ程度に難しいことが知られています。そのため、NP困難問題は一般に非常に難解で、現実的な時間内に正確な解を得ることは困難であることが多いため、様々な問題において最適解を求めるための効率的なアルゴリズムが求められます。

概念

巡回セールスマン問題では、以下のような要素があります。

  • 都市:旅行の対象となる個々の場所。
  • 距離:2つの都市の間の移動に必要な距離またはコスト。
  • 経路:全ての都市を訪問する順序。最初と最後の都市は同じでなければならない。

解決方法

巡回セールスマン問題を解決するためのアプローチには、以下のようなものがあります。

全列挙法

巡回セールスマン問題を解くためには、全ての可能な経路の長さを計算して、最短経路を選択する方法があります。しかし、都市の数が多くなるにつれて、この方法は非常に時間がかかります。

近似アルゴリズム

多くの場合、近似アルゴリズムを使用して、実用的な解を得ることができます。近似アルゴリズムには、貪欲法、最近傍法、2-opt法、3-opt法、Lin-Kernighan法などがあります。

メタヒューリスティクス

メタヒューリスティクスは、局所的な最適解を避けつつ、大域的な最適解を探索するアルゴリズムです。遺伝的アルゴリズム、粒子群最適化、アントコロニー最適化などがあります。

具体な巡回セールスマン問題の例

例えば、6つの都市を回る場合を考えてみましょう。都市間の距離は以下のようになっています。

都市 1 2 3 4 5 6
1 0 2 3 1 4 5
2 2 0 4 2 3 4
3 3 4 0 1 2 1
4 1 2 1 0 5 2
5 4 3 5 5 0 3
6 5 4 2 2 3 0

最近傍法を用いる場合、都市1から始めて、最も近い都市4に移動し、次に都市2、3、6、5を訪問します。最後に都市5から出発点の都市1に戻り、巡回する経路を得ます。この場合、経路の長さは、1-4-2-3-6-5-1の7となります。

進化的計算手法を用いる場合、ランダムな初期解を生成し、適応度を評価し、改善を繰り返していきます。例えば、以下のような初期解を生成しましょう。

1 2 3 4 5 6
A 1 3 5 6 2 4

この解を適応度関数にかけて、評価します。評価関数は、経路の長さを表します。この場合、経路の長さは、1-3-5-6-2-4-1の16となります。

次に、この解を改善するために、遺伝的アルゴリズムを用いて解を生成します。遺伝的アルゴリズムは、遺伝子操作によって解を改良していく手法です。まず、初期解から2つの解を選択し、交叉させて新たな解を生成します。次に、新たな解に突然変異を加え、解を改良します。これを繰り返して最適解に収束させます。

例えば、解Aと解Bを選択し、2つの解を交叉させると、以下のような解Cが生成されます。

1 2 3 4 5 6
A 1 3 5 6 2 4
B 6 5 4 2 1 3
C 1 3 4 2 1 5

次に、解Cに突然変異を加えて、解Dを生成します。

1 2 3 4 5 6
C 1 3 4 2 1 5
D 1 3 4 6 1 5

このように、進化的計算手法を用いて解を改善していくことで、最適解に収束さた例を見てきましたが、巡回セールスマン問題にはさまざまな解法が存在します。その中でも、最適解を求めるのに適した手法は、整数計画法を用いる方法です。整数計画法は、最適解を求めるための数理モデルを設計し、最適解を求める方法です。この方法を用いる場合、経路の長さを最小化する制約条件を設定し、最適解を求めます。

まとめ

巡回セールスマン問題は、計算量が膨大であるため、大規模な問題に対しては、最適解を求めることが困難です。そのため、実用上は、近似アルゴリズムを用いることが多いです。近似アルゴリズムは、最適解にはならない可能性がありますが、短時間で解を求めることができるため、実用上の問題に対しては、有効な手法となっています。

巡回セールスマン問題には、さまざまな解法が存在します。最近傍法、進化的計算手法、整数計画法などが代表的な手法であり、実用上は近似アルゴリズムを用いることが多いです。ただし、問題の規模や条件によっては、最適解を求めることができる場合もあります。巡回セールスマン問題は、多くの応用分野において、最適な経路を求める上で重要な問題であるため、今後も研究が進められることが期待されます。

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